経営課題の掌握
経営の問題点を見つける手法として「経営分析」があります。「収益性の分析」には、粗利益率・営業利益率などの指標により、「安全性の分析」には流動比率・商品回転率・固定比率などの指標を使います。
しかし、このような経営分析は必要ですが、いまひとつピンときません。それよりも事業の収益性に直結し、感覚的に経営状況を把握できる指標があります。その指標とは「総資本利益率」です。
総資本利益率は、「当期利益の金額÷期末総資本の金額(当期末総資産の金額)」で計算します。言いかえれこの数値は、事業に投下したお金(借入金を含む)がどれほどの利益を生んだかを表したものです。つまり、お金を事業以外に投資した場合(株や債券に投資するなど)に比較して、事業に投資したことによる儲けが多くなければ、事業にお金を投下した意味がなくなるからです。
また、総資本利益率は「売上高利益率」と「総資本回転率」に分解されます。「売上高利益率」は、最小の費用で最大の売り上げをあげていかに利益を確保したかを表します。これにより、営業活動の収益力の強さを判断します。「総資本回転率」は、必要最小限に押さえた資産をいかにうまく商売に活用できたかを表します。これにより、お金が効率的に使われているか否かを判断します。
これらのことから、経営良化のテーマは、企業規模の大小に拘わらず、売上高利益率の向上つまり「収支改善」と総資本回転率の向上つまり「資金効率の改善」に絞られます。
「収支改善」の具体的な課題は営業力の強化です。営業力の強化は、単なる「販売力の強化」だけでなく、顧客開発の在り方、商品開発(仕入れ)の在り方、在庫管理の在り方にまでつながる重要なテーマになります。
資金効率の悪化は、資産の滞留を招き、ひいては運転資金を圧迫します。したがって資金効率の改善は、運転資金の良化つまり「資金繰り改善」につながる重要な課題です。「勘定合って、銭足らず」という格言は資金効率の悪化を戒めたものです。しかし、経営良化の取り組みのうち最も厄介なテーマは、「資金繰り改善」です。特に有利子負債がある場合は、返済資金の捻出が必要になることから、資金繰り圧迫だけでなく、収支悪化にも大きく影響し、改善に時間と努力が求められるからです。
経営に当たっては、投下したお金がどれほどの利益を生んだのかの関心を高め、自社の経営状況判断のために、常に自社の「総資本利益率」を確認しましょう。
課題解決への着手点
総資本利益率の改善には、「収支改善」と「資金繰り改善」を並行して取り組む必要があります。課題解決のために行うべき着手点は、「貸借対照表の資産の部の見直し」です。収支改善のための「経費削減」ではありません。
なぜ経営改善に、「貸借対照表資産の部の見直し」から着手すべきなのでしょうか。その理由は、次のような考え方からです。例えば、受取手形や売掛金等の滞留債権、遊休の固定資産、必要性の低い投資などがある場合は、その見合いとして、余分な借入れにつながることが多いからです。したがって、それらを減らして資金化して借入れの返済に充てれば、借入金も減り、金利も軽減されて総資本利益率が良貨することが出来き資金繰りの改善につながります。
さらに、「貸借対照表の資産の部の見直し」は、これらの決算数値の改善だけでなく、経営活動全般にわたってその活動の問題点を見出すことが出来ます。例えば、滞留債権が多いということは、営業活動に課題があることを示し、滞留在庫が多いということは、仕入れの在り方や在庫管理の在り方に問題点があることを示しています。これらの問題点一つ一つを解決する取り組みが、まさに経営改善の取組みです。
経営改善の目的だけでなく、経営管理の方法として常に貸借対照表の資産の部に関心を持ち、適正な資産額を維持することが重要です。