配偶者控除廃止の是非を考える


平成29年度の税制改正では、配偶者控除廃止は見送られたようです。それでも配偶者控除の廃止は、世論の動向を見ながらその廃止時期を探っており、平成30年度の税制改正論議でも引き続き取り上げられるでしょう。
配偶者控除の廃止理由の主な理由として挙げられているのが「女性の社会進出の妨げになっている。」という議論です。この主張には、大きく二つの点で問題があります。以下、この問題について考えていきたいと思います。
配偶者控除廃止論の中で、納税者である私たちが最も注意すべき点は、理由の如何を問わず「配偶者控除の廃止は増税になる。」ということです。女性の社会進出の促進を理由に増税を図っているとも考えられるのです。

配偶者控除はいつ創設された

所得税は、明治20年(1888年)に一連の近代化政策の一環として創設されたといわれています。しかし、当時の納税人口は12万人ほどで、総人口の0.3%に過ぎなかったようです。当時の納税者は、富裕層で「納税者制限選挙制度」による一定の政治的地位の獲得者でもありました。
このため、当時の所得税では、納税者の個人的事情を考慮する必要のないものでした。

このような所得税創設の歴史の中で、最初の所得控除の創設は、大正2年(1915年)の「勤労者控除」です。その後、納税者の個人的事情を考慮するという理由から、所得控除制度が次々と創設されてきました。

配偶者控除は、昭和36年(1961年)に従来の「扶養控除」から独立させて創設されました。
創設の背景は、次の二つとされています。
(1)当時の白色申告者に対して、配偶者の家事労働と事業従事労働との区分の曖昧さを明確にすること。
(2)同一所得金額の給与所得者世帯間での「片稼ぎ夫婦」と「共稼ぎ夫婦」との税負担の不公平を是正すること。

配偶者控除創設の背景を見ますと、創設の目的が「税負担の公平」を確保するであることが分ります。

配偶者控除廃止理由のどこが問題か

(1)103万円の壁の指摘

「103万円の壁」の問題は、女性の社会進出の妨げになっているという指摘です。
これは、家庭の主婦がパートなどで給与所得者として就業した場合、給与所得の最低控除額65万円までは所得が発生しませんので、配偶者控除の適用要件である38万円未満にするように収入金額や就業時間を調整する行動を指しています。

そもそも配偶者控除を廃止することで、主婦の就業へのインセンティブが与えるか否かは疑問の残るところです。
すでに社会進出を目指している女性にとって、僅か38万円の配偶者控除は妨げにならないという反論もあり、企業側から見た場合でも、多くの主婦労働を活用できるメリットがあると考えられるからです。

更に、主婦の就業割合を夫の収入階層別に分析したデータ(総務省「就業構造基本調査」平成19年版から)によれば、夫の年収が低い階層ほど就業割合が高いことが分ります。特に夫の年収が200万円未満の階層では、主婦の就業割合が73.3%に達します。
ここから見えるものは、これらの主婦は「103万円の壁」を利用して、家庭生活と家計の両方に努力を払った生活している姿ではないでしょうか。

このような事実を考慮せずに配偶者控除の廃止に踏み切ることは、果たして税負担の公平な姿といえるのでしょうか。

(2)優遇税制との指摘

配偶者控除は、夫の収入金額から控除することが出来ることから「共働き世帯に比し、夫は二重に控除を受けて不公平だ。」との指摘です。

この指摘は、所得税の課税単位は個人を単位としながら、世帯単位的な要素を考慮していることによるものと考えられます。そもそも所得税の考え方に「最低生活費の非課税」というものがあります。最低生活費の非課税とは最低生活費には課税しないという考え方で、個人の最低生活費を税制上も考慮するというものです。

この考え方が強く反映している制度が「扶養控除制度」です。配偶者控除は、扶養控除から独立させてできた制度と前に説明しました。つまり、配偶者控除と扶養控除は「最低生活費には課税しない」という税制上考え方の現れなのです。
配偶者という理由だけで、配偶者の最低生活費の保証が不必要になるわけではありません。現在の配配偶者控除は、配偶者の所得が低い場合、配偶者の最低生活費を負担している夫の所得から控除する制度です。このように、配偶者の最低生活費を夫が負担している事実を所得税制において配慮するのは当然と言えます。

以上のように配偶者控除の本質は、配偶者の最低生活費の非課税にあるのです。配偶者が専業主婦として生活しその費用を夫の収入から支出している以上、夫の所得から控除することは、税負担公平の観点から不公平との指摘は当たらないのではないでしょうか。

配偶者者特別控除について

配偶者特別控除制度は、昭和62年(1987年)に創設されたものである。この制度創設の背景の一つに「パート問題」がありました。「パート問題」とは、パートで働く主婦の所得が一定額を超えると世帯全体の「税引き後の手取所得が減少」してしまうという「逆転現象」を言います。

これを解消するために様々な視点から議論され、創設された制度が配偶者特別控除です。この議論の中では、配偶者控除制度と同様に「この制度は女性の社会進出を抑制する制度ではないか。」との指摘がありました。その後、平成16年(2004年)に配偶者控除の「上乗せ部分」が廃止され、現行の制度になっています。
女性の社会進出をいかに促進すべきかの問題は、真の妨げ要因を排除してこそ、その目的が達成できると考えます。その妨げの要因は、税制上にあるのではではなく、社会のニーズや女性に対する評価の在り方などに、より大きい問題が潜んでいると考えられます。

もちろん、女性の中には、家庭の主婦を幸せと考えている方もおられるはずです。それを無視し、女性全員を働く方向に駆り立てるような考えは、本当に正しいのでしょうか。
むしろ、配偶者控除制度があることで、女性の多様な生き方を保障することになるとも考えらえます。したがって、「女性の社会進出を妨げている制度」という誰もが反対しずらい理由で配偶者控除を廃止し、税負担の公平が損なわれてはならないのではないでしょうか。

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