一瞬の場面
2016年の「セントラルリーグCSファーストステージ第3戦」ジャイアンツの鈴木尚広選手が代走に出ました。この時点でジャイアンツは負けていましたので、同点あるいは逆転を狙って鈴木選手を代走に送ったのでしょう。
ところがここで、思いもかけなかった場面が出ました。DeNAのピッチャー牽制によって1塁アウトになったのです。この場面をご覧になっていた方も多いと思います。筆者は、この場面が鈴木選手の気の緩みに見えました。なんといっても、鈴木選手は盗塁成功率が80%を超える選手です。「このようなことがあってはならない」と感じました。結果ジャイアンツは、DeNAに敗れました。そのDeNAもCSファイナルステージでは、広島に敗れ、その広島も日本シリーズでは、日本ハムに敗れ日本一の夢には届きませんでした。プロの世界の厳しさを実感しました。
一瞬の輝きのための準備
11月初めのあるTV番組で鈴木尚広選手を取り上げていました。その内容に、筆者は引き込まれました。その内容からは、CSファーストシリーズでの鈴木選手の一塁牽制アウトが「気の緩み」に見えていた自分に恥ずかしささえ覚えました。鈴木選手は、その一瞬のために大変な準備をしていることが分ったからです。
鈴木選手は、1996年福島県立相馬高校からドラフト4位でジャイアンツに指名されました。当初は、その俊足を生かしてトップバッターにと期待されていましたが、一軍での出場は2002年からです。2008年に代走で生きることを選択するまでは、監督の方針によって先発出場であったり、守備や代走の要員であったりしたようです。
TV番組では、代走としてプロで生きるための鈴木選手の取組みを中心に放送していました。
彼は、毎日午前8時頃に球場に出ます。グラウンドに出て、40分かけて体をほぐしながらその日の体調をトレーナーが観察します。それが終わると、20種類のトレーニングメニューの中から選んだメニューによる「体幹の強化トレーニング」を行います。
試合中は、試合の流れを読み、最後の体の準備を行い、出場に備えます。その出場は、今日の準備の開始時刻から9時間後のことです。このような準備をしていても、出場するか否かを鈴木選手が決めるわけではありません。9試合、出場のないときもあったようです。このようなときの準備は、プロといえども大変困難なようです。準備や調整の他に、この現実に向き合うことが要求され、「自分に向き合わないと、自ら崩れる。」「準備は自分を裏切らない。」と自分に言い聞かせて鈴木選手は準備を続けていました。
プロとしての工夫と心構え
代走で盗塁200以上の記録を持つ鈴木選手は、盗塁へのスタートやスライディングに工夫を加えていました。盗塁のスタートでは、スピードスケートの選手が行う、スタート時の一瞬の体の沈みこみを取り入れました。体を沈めることで、大地からの反発の力を利用するのだそうです。
スライディングの工夫は「飛ぶスラーディング」です。飛ぶことによって、体とグラウンドの摩擦が減り、次の塁への到達時間が短縮されるそうです。しかし、飛ぶことはケガする危険も大きくなります。それを回避するためにベースへのタッチの際、膝をややまげてベースにタッチすることも行っていました。
プライベートの時間には、美術館へも足を運んでいました。ピカソやゴッホなどの一流画家の絵を見ていると、そこには一流の人ならではの何かを得られるそうです。「どのような状況においても100%の力を発揮すること」がプロの心構えだと、鈴木選手は言っていました。
彼のシューズに「Be Read」と刺繍がしてあったのが印象的でした。